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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和27年(ネ)137号 判決

控訴代理人は、原判決を取消す。被控訴人が別紙目録記載の農地につき、昭和二五年一二月二一日裁決第一、四〇一号をもつてした裁決は、これを取消す。訴訟費用は、第一・二審共被控訴人の負担とする。との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、

控訴代理人において、訴外川北時芳は、昭和二二年九月二五日月野村農地委員会に対し、本件農地につき遡及買収の請求をしたので、同委員会においては、それに関し、昭和二二年一二月頃委員会を開き、その際、控訴人及び同訴外人に対し、和解の勧告をしたところ、控訴人は、同委員会の求めに応じ、月野村字葛ケ田五、八八九番田九畝二二歩の農地を同訴外人に解放し、同農地は同委員会から同訴外人に売渡すこととし、それに対し、同訴外人は、右遡及買収の請求を取下げることの条項のもとに和解が成立したものである。それで、右和解の成立により、民法第六九六条の規定による和解の効力として、控訴人と同訴外人との間における本件農地に対する小作契約は、昭和二〇年一一月二三日以前に解約されたものと看做すべきであり、一方、同委員会も右解約の事実を承認したものと看做すのが相当である。さすれば、本件裁決は、取消を免れないのである。

次に、本件裁決は、自作農創設特別措置法第六条の三の規定に違反する裁決である。けだし、同条の規定によれば、市町村農地委員会が遡及買収の請求を受けてから二ケ月以内に買収計画を定めない場合において、その請求をした者が、期間経過後一ケ月以内に都道府県農地委員会に買収計画を定めるべき旨を指示すべきことを請求したときは、都道府県農地委員会は、当該農地委員会に農地買収計画を定めるべき旨を指示することになつている。しかして、元来、被控訴人としては、買収計画を定められた地主が、法定の期間内にそれに対する異議または訴願等をしなかつた際は、その権利を行使することを得ない場合と同様、小作人においても、右法条所定の期間を守らなかつた場合には、遡及買収請求の効力は喪失するものとみるべきにかかわらず、右規定の趣旨に反し、昭和二四年一一月二六日月野村農地委員会に対し、本件農地につき、遡及買収計画を定めるべき旨を指示し、それにより、本件遡及買収の計画の定めがあり延いて、本件裁決があつたことが窺い得られるからである。されば、この点においても、本裁決は違法といわざるを得ない。なお、請求原因中、原判決二枚目裏末行から同三枚目表一行の「川北時芳に同情して昭和二四年四月頃」とあるを「川北時芳に同情して昭和二二年一二月中旬頃」と改める。と述べ、

被控訴代理人において、本件農地については、控訴人主張のような和解が成立した事実はなく、また、それに基いて遡及買収請求の取下をした事実もない。しかして、自作農創設特別措置法第六条の三の規定の趣旨は、結局、遡及買収をせんとするものの請求に基き、上級官庁が、その監督権の発動として市町村農地委員会に対し、その処分を促すだけの意味を持つに過ぎないし、従つて、その所定の法定期間も訓示規定に過ぎないから、同条所定の期間経過後のいわゆる指示請求も、都道府県農地委員会の裁量により許容し得るところである。さすれば、本件農地に対する控訴人主張の期間経過後の指示請求も、被控訴人の裁量により許容した結果本件遡及買収計画の定めとなつたものであるから、本件裁決には何等の違法も存在しない。と述べた外は、原判決事実摘示のとおりであるから、いずれも、ここに、これを引用する(立証省略)。

三、理  由

訴外月野村農業委員会(元月野村農地委員会、以下同じ)が、別紙目録記載の農地につき、昭和二五年一〇月七日買収計画を定めたところ、これに対し、控訴人から異議申立をしたが棄却されたので、被控訴人に対し訴願し、被控訴人は同年一二月二一日裁決第一、四〇一号をもつて、その訴願を棄却したこと、控訴人は、その所有にかかる本件農地と共に、鹿児島県囎唹郡月野村字葛ケ田五、八八九番田九畝二二歩内畦畔二三歩の農地を訴外川北時芳に小作させていたところ、右農地について争が起り、同訴外人から控訴人を相手方として、鹿児島地方裁判所に対し、小作調停の申立をした結果、昭和一九年六月一六日控訴人主張のような条項で調停成立したことは、いずれも、当事者間に争のないところである。

よつて、まず、控訴人は、昭和二〇年一一月七日訴外川北時芳との間において、本件農地に対する小作契約は、同訴外人が小作調停の条項の内、控訴人に刈分の立会の機会を与えなかつたこと、小作料の支払をしなかつたことの理由のもとに、合意の上解約した旨主張するから按ずるに、原審並びに当審における控訴本人の尋問の結果によれば、控訴人は右主張に副うようなことを述べているが、しかし同陳述は、後記証拠と対比すれば、たやすく信用がおけない。かえつて、成立に争のない乙第三号証の一乃至三、原審証人川北美奈男・同橋野伝・同白浜行男原審並びに当審証人川北時芳(原審では第一・二回)の各証言を照し合せて考えると、控訴人主張の昭和一九年度の稲の刈分の際には、訴外川北時芳は、小作調停の条項に従い、控訴人に対し、予め刈分期日の通知をし、その立会を求めたが、控訴人においては、その当日所用のため立会をしなかつたので、同訴外人は、やむなく控訴人の立会のないまま稲を刈り取つたが、その後間もなくして、控訴人は掛け分けに立会つたので、結局、刈分の目的である収穫高の正確は期せられたことになり、同年度の同訴外人の控訴人に負担する右農地に対する小作料は、籾一四俵半と定められたものである。しかして、元来、小作料は、農地調整法の規定するところにより、金銭以外のものをもつて支払い又は受領することはできないし、しかも、食糧管理法、同法施行令の規定によれば、その生産した米は、政府に売渡さなければならないので、同訴外人は、右小作料として定められた籾一四俵半を玄米にしたところ、六叺余となつたので、昭和二〇年二月一三日右法令等の定めるところに従い、控訴人に対する小作料の支払として、これを、当時の月野村農業会に寄託し、その残余については、これを金四〇円に見積り、同訴外人が小作米を運搬した費用等と精算し、以上により、昭和一九年度の小作料は完納したこととなつたので、同訴外人に控訴人主張のような合意解約の原因となつた小作調停条項違反の事実はない。それで、結局、本件農地については、合意解約があつたものではなく、控訴人において、昭和二一年五月頃同訴外人からこれを不法に取り上げ、自ら耕作するようになつたいきさつが窺い得られるところである。控訴人提出援用にかかる全立証をもつてしても、右認定を覆し、その主張事実を認めるに足りないから、控訴人の右主張は採用するに由ない。さすれば、本件農地は、昭和二〇年一一月二三日現在同訴外人の耕作する小作地であり、しかして、成立に争のない乙第一号証によれば、控訴人は同日現在他に自作地として二町一反三畝六歩を所有していたことが認められるので、月野村農業委員会が、本件農地は自作農創設特別措置法第三条第一項第三号該当地として買収計画を定めたことは違法でないから、これを認容した本件裁決も違法とはいえない。

次に、控訴人は、訴外川北時芳の本件農地に対する遡及買収の請求は、信義に反する。との主張につき按ずるに、元来、遡及買収の請求に先だち、和解成立し、和解条項の一として、遡及買収の請求をしない旨約した農地につき、後日、その約旨に反し、遡及買収の請求をするような場合は、自作農創設特別措置法第六条の二第二項第二号の信義に反する請求といえないでもないが、遡及買収の請求をする当時は、別に何等信義に反する事情はなかつたが、たまたま、その後、農業委員会が買収計画を定める前に和解勧告をし、その結果、農地の一部に対し、請求を取下げることを約しながら、これを履行せず、結局、買収計画が定められたとしても、その一事をもつて、直ちに遡及買収の請求そのものは信義に反するとは言い得ないものと観るのが相当である。それで、今、成立に争のない乙第五号証の二、原審並びに当審証人松崎太市及び原審証人岩島武義の各証言の一部(後記措信しない部分を除く)、原審並びに当審証人佐々木為敏及び同川北時芳(原審では第一・二回)の各証言を綜合すれば、訴外川北時芳が、本件遡及買収の請求をしたのは昭和二二年九月二五日であり、その農地は、本件の農地の外、鹿児島県囎唹郡月野村字葛ケ田五、八八九番田九畝二二歩外二筆も含まれていたが、当時月野村農業委員会の会長の職にあつた松崎太市及び同委員であつた岩島武義は、委員会を代表し、控訴人と同訴外人とに和解の勧告をし、しかして、昭和二三年二月二日頃右田九畝二二歩の農地を同委員会において買収し、これを同訴外人に売渡し、本件農地に対する遡及買収の請求は取下げるべく求めたが、同訴外人の容れるところとならなかつたので、結局、その和解は不調に終つたものであり、従つて、同訴外人においては、本件農地に対する遡及買収の請求を取下げた事実は到底認め得ないところである。右認定に反する部分の前記松崎太市及び同岩島武義の各証言、原審並びに当審における控訴本人の陳述は信用しがたい。他に、右認定を左右するに足る控訴人の証拠はない。さすれば、その主張のような和解成立を前提としてなす右主張も採用することを得ない。従つて、月野村農業委員会が本件農地につき買収計画を定めたこと及びこれを認容した本件裁決には、その主張のような違法はない。更に、控訴人は、本件農地に対する遡及買収の請求については、控訴人及び訴外川北時芳に対する月野村農業委員会の和解勧告により、和解が成立し、その結果、同訴外人は、本件農地の遡及買収の請求は取下げることを約したから、その和解の効力として、本件農地に対する小作契約は昭和二〇年一一月二三日以前に解約されたことになり、同委員会もこれを承認したと看做すべきであるから、本件裁決は違法であると主張するが、しかし、その主張のような和解の成立しなかつたことは、既に前段において認定したとおりであるから、その主張のような和解の成立を前提とする本主張も、採用するに値しない。されば、本件裁決には違法はない。

なお、控訴人は、本件買収計画を定めたのは、自作農創設特別措置法第六条の三に定めてある期間を徒過してなされた、いわゆる指示請求に基くものであるから違法であり、これを認容した本件裁決も、また、違法であると主張するから按ずるに、前掲当事者間に争のない事実、成立に争のない乙第五号証の二、原審証人白浜行男の証言、原審並びに当審証人松崎太市の証言を綜合考量すれば、訴外川北時芳が本件農地の遡及買収請求をしたのは、昭和二二年九月二五日であり、その後月野村農業委員会は、本件農地買収計画を定めるについての調査等のため時日を徒過し、そのため、被控訴人から昭和二五年になつて買収計画を定めるべく指示されたので、昭和二五年一〇月七日自作農創設特別措置法第六条の三の規定に基いて買収計画を定めたことが窺い得られるから、本件農地の遡及買収の請求のあつた日から、いわゆる指示請求のあつた日までは、その主張のように相当の月日が経つていることが明らかである。しかし、元来、同法第六条の三所定の期間については、同法第七条第一項・第四項、第四七条の二の第一項等の規定と異り、特別の定めがないから、その期間を、いわゆる不変期間と解すべき根拠はなく、同法第一条所定のように、耕作者の地位を安定し、その労働の成果を公正に享受させるため、自作農を急速に創設する必要から、一般の処分の遅滞を防止せんとする趣旨のもとに設けられた訓示規定であると解すべきが相当である。さすれば、右第六条の三所定の期間を徒過してなされた指示請求に基く本件買収計画の定めについては、その効力に何等の影響もないものといわざるを得ない。それ故、本主張も採用するに由ないから、本件裁決には何等の違法も存在しない。

よつて、控訴人の請求を排斥した原判決は結局相当であり、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条に則り、これを棄却し、控訴費用の負担につき、同法第八九条・第九五条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 甲斐寿雄 山下辰夫 長友文士)

(目録省略)

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